症例
■関節リウマチ:30代女性 来院の1年前より指の関節が腫れてくる。3ヶ月すると右膝関節が腫脹してくる。10ヶ月後にリウマチといわれる。手の指、手首、右膝の腫脹と痛み。リウマトレックスの服用を開始する。あまり症状の改善がないので、鍼を希望して来院(クリニックの服薬は継続)。舌、脈、局所の反応から炎症が非常につよい状態。ただし敏感な体質なのでつよい刺激はできないと考え、頭に細い鍼を一本と、手と足の経穴に接触するだけの鍼施術を継続する。週に2回、一年ほど施術して、初診時CRPは2.3であったが正常域である0.09まで低下する。現在週に一回、鍼を継続してるが自覚症状は手首の痛みがたまにでるくらいで、関節滑膜の変化もなく病状は進行せずに安定している。
■リウマチ性筋多発症候群およびうつ状態 60代女性。ステロイド剤の廃薬と寛解2年前より頸、腕、背部の痛みがでて、腕手に力が入らなくなる。1年半前より両方の指関節が腫脹して痛みで力が入らなくなる、ステロイド10mg服用を始める。1年前よりは肩関節の痛み、手の指の腫脹、発赤、脱力あり、うつ症状もあり、ステロイド5mgを服用している。鍼ではつよいストレスによる炎症反応がみられ、背部への鍼と、腹部打鍼(腹部への刺さない鍼刺激)を根気よく継続した。1年ほどで症状は落ち着き、ステロイド服薬もなくなり、畑仕事を一日しても大丈夫になる。現在月に1~2回予防で鍼を継続している。
※記載の症例は、当院の鍼灸を受療されて同じような経過をたどることを保証するものではありません。症状・病気の程度、生活習慣や体質の違いで効果は異なることがあります。施術を受けられる際の参考としてご覧ください。
東洋医学に基ずく鍼灸施術
1. 東洋医学における関節リウマチの捉え方
西洋医学では「自己免疫疾患」とされ、滑膜炎による関節破壊が本態です。
東洋医学では以下の病因病機で理解されます。
風・寒・湿・熱の邪気(外因)
➡ 関節に侵入して「痺証(しびしょう)」を形成し、痛み・腫脹・拘縮を生じる。
肝・腎・脾の虚損(内因)
➡ 気血不足により経絡が養われず、慢性化し、関節変形・筋力低下に進む。
よって「実証(痺証)と虚証(正気不足)」が絡み合った病態と考えます。
2. 診断と分類(弁証論治)
RAに対する代表的な弁証型は次の通りです:
風寒湿痺(初期に多い)
症状:関節痛が冷えや湿気で悪化、重だるい。温めると軽快。
治法:祛風・散寒・除湿・通絡。
湿熱痺(炎症期・急性期に多い)
症状:関節の赤熱腫脹・灼熱痛・発熱。
治法:清熱・利湿・通絡。
気血両虚(慢性化で多い)
症状:疲労倦怠、四肢痺れ、痛みは軽いが長引く。
治法:補気養血・和営止痛。
肝腎不足(進行期・変形期に多い)
症状:関節の変形、腰膝酸軟、夜間痛、骨のもろさ。
治法:補肝腎・強筋骨。
3. 鍼灸施術の基本方針
局所治療:腫脹・疼痛関節の周囲経穴に刺鍼して通絡止痛。
【橋本鍼灸院では局所は過敏なので刺針しません。鍉鍼など接触鍼は用いることがあります。】
全身治療:弁証に基づいて正気を補い、邪気を祛す。
温熱療法:灸・温鍼を組み合わせて寒湿を散らす。
慢性例では補法、急性炎症期では瀉法を重視。
4. 使用される主な経穴
(1)局所経穴
指関節:十井穴は時に用います。
(2)全身の調整穴
風寒湿痺:風池、合谷、外関、三陰交
湿熱痺:曲池、陰陵泉、足三里、豊隆
気血両虚:気海、関元、足三里、血海
肝腎不足:腎兪、肝兪、太谿、三陰交
5. 研究・臨床報告
中国の臨床試験では、RA患者に鍼灸を行うと疼痛緩和・関節機能改善・炎症マーカー軽減の報告があり(例:IL-6やCRP低下)、補助療法としての有効性が示されています。
日本でも、RA患者における疼痛緩和や生活の質(QOL)の向上が鍼灸で報告され、薬物療法との併用で副作用軽減や寛解維持に寄与する可能性が検討されています。
まとめ
関節リウマチに対する東洋医学的鍼灸施術は、
急性期は邪を祛して炎症を抑える
慢性期は気血を補い、肝腎を養い、関節の機能維持を図る
局所治療と全身調整を組み合わせる
という二段構えで進められます。
現代西洋医学の薬物療法(抗リウマチ薬・生物学的製剤など)と併用し、疼痛軽減・QOL改善に役立つ「補助療法」として位置づけるのが臨床的に現実的です。
橋本鍼灸院では、各人の体質と病状に合わせて適切なツボを厳選して施術しています。
参考文献
『針灸学(中医学シリーズ)』人民衛生出版社(日本語訳版:東洋学術出版社)
関節リウマチを風寒湿痺・湿熱痺・肝腎不足などに分類して治療原則と配穴を解説。
臨床研究・論文
Wang C, et al. "Acupuncture for patients with rheumatoid arthritis: a systematic review." Semin Arthritis Rheum. 2008;37(6):443–454.
関節リウマチに対する鍼治療のシステマティックレビュー。疼痛緩和や機能改善の一定の効果を示唆。
Lee MS, Shin BC, Ernst E. "Acupuncture for rheumatoid arthritis: a systematic review." Rheumatology (Oxford). 2008;47(6):849–850.
ランダム化比較試験をまとめ、RAに対して補助療法として一定の有効性があると評価。
Zhang W, et al. "Effect of acupuncture on serum inflammatory factors in patients with rheumatoid arthritis." Clin Rheumatol. 2018;37(9):2343–2349.
鍼治療によりIL-6、TNF-αなど炎症性サイトカインが有意に低下。
日本伝統鍼灸学会学術大会抄録
RA患者に対する鍼灸施術によるQOL改善・疼痛緩和の症例報告が複数あり。