鍼灸の効果について、現代医学と古典鍼灸の知見を踏まえて説明します。
🔵鍼灸って何?
鍼灸(しんきゅう)とは、東洋医学に基づいた治療法で、細い鍼(はり)を体の特定のツボに刺したり、もぐさというヨモギの葉を乾燥させたものをお灸としてツボに置いたりして、体を刺激することで病気の改善や健康維持を図るものです。※当院では、直接艾をのせずに、シールを貼った上に艾を乗せてお灸をしますので、火傷することはありません。
「ツボ」というのは、東洋医学では「経穴(けいけつ)」と呼ばれ、体の中を流れる「気(き)」や「血(けつ)」の通り道である「経絡(けいらく)」上にあるとされています。このツボに鍼やお灸をすることで、ツボの状態を改善して、経絡や内臓に影響を及ぼして身体のアンバランスを調えます。
🔵鍼灸はどんな効果があるの?
鍼灸の効果は、科学的な研究も進んでおり、主に以下のようなことが期待できます。
◎ 痛みを和らげる効果(鎮痛効果)※古典鍼灸では、「安神止痛」「疏肝止痛」などといいます。
①肩こり、腰痛、頭痛、神経痛など、様々な痛みに対して効果が期待できます。
②鍼を打つことで、脳内で痛みを抑える物質(エンドルフィンなど)が分泌されたり、血行が良くなったりすると考えられています。お灸の温熱効果も、筋肉の緊張をほぐし、痛みを和らげるのに役立ちます。
③科学的根拠: 鍼刺激が神経系に作用し、鎮痛物質の分泌を促すことや、炎症を抑える作用があることが示されています。
◎体のバランスを整える効果(自律神経調整効果)※古典鍼灸では、五臓の「肝」、「腎」、「脾胃」のバランスを調えることで身体のバランスを改善していきます。関係するツボに鍼灸をします。※ツボの解説
①ストレスや不規則な生活で乱れがちな自律神経のバランスを整える効果が期待できます。自律神経は、心臓の動き、呼吸、消化、体温調節など、体の様々な機能をコントロールしています。
②自律神経が整うことで、不眠、イライラ、便秘、下痢、めまいなどの症状が改善されることがあります。
③科学的根拠: 鍼灸が自律神経活動(交感神経と副交感神経のバランス)に影響を与え、ストレス応答を緩和することが研究で示されています。
◎血行を促進する効果 ※古典鍼灸では、「活血通絡」、「活血化瘀」(化瘀とは停滞した血を巡らすということです)などといいます。気を巡らす合谷・肝兪を用いて気を動かして血を巡らしたり、三陰交・膈兪などで血を直接巡らします。※ツボの解説
①鍼や灸の刺激により、血管が拡張し、血行が促進されます。血行が良くなることで、体の隅々まで酸素や栄養が行き渡りやすくなり、老廃物の排出も促されます。
②冷え性やむくみの改善にもつながります。
③科学的根拠: 鍼刺激が局所の血流を増加させることや、血管拡張物質の放出を促すことが報告されています。
◎免疫力を高める効果 ※古典鍼灸では、免疫低下(風邪をひきやすい、感染症にかかりやすい、など)は気血の弱りと考えます。太白・脾兪・腎兪などのツボで気血を補います。※ツボの解説
①鍼灸によって、免疫細胞の働きが活発になるという報告もあります。免疫力が高まることで、風邪をひきにくくなったり、病気になりにくい体になったりすることが期待されます。
②科学的根拠: 鍼灸が白血球やリンパ球などの免疫細胞の数や活性に影響を与え、免疫機能の向上に寄与する可能性が示唆されています。
◎リラックス効果 ※古典鍼灸では、リラックス効果は「疏肝安神」などといいます。百会・肝兪・神門・後谿・関元などのツボに置鍼することでリラックス効果が大きく現れます。※ツボの解説
①鍼灸の施術は、心身のリラックスを促します。特に、お灸の温かさや香りは、心地よさを感じさせ、ストレスの軽減にも役立ちます。深いリラックス状態になることで、体の回復力も高まります。また経験上、鍼は20分以上置鍼するとリラックス効果がより一層現れます。
②科学的根拠: 鍼灸がストレスホルモンのレベルを低下させたり、脳波に影響を与えてリラックス状態を誘発したりすることが報告されています。
🔵どんな症状に良いの?
鍼灸は、世界保健機関(WHO)でも様々な疾患に対する有効性が認められています。以下はその一例です。
* 運動器系の疾患:肩こり、腰痛、膝の痛み、五十肩、寝違え、腱鞘炎など
* 神経系の疾患:頭痛(特に緊張型頭痛や偏頭痛)、めまい、顔面神経麻痺、坐骨神経痛、神経痛など
* 消化器系の疾患:胃炎、便秘、下痢、機能性ディスペプシアなど
* 婦人科系の疾患:生理痛、生理不順、更年期障害、不妊症(補助療法として)など
* 呼吸器系の疾患:喘息、アレルギー性鼻炎など
* その他:不眠症、うつ病(軽度)、ストレス、眼精疲労、耳鳴り、冷え性、むくみなど
🔵鍼灸を受けるときのポイント
* 信頼できる施術者を選ぶ:鍼灸師は国家資格です。厚生労働大臣認定の資格を持っているか確認しましょう。
* 症状をしっかり伝える:問診で、現在の症状だけでなく、生活習慣や既往歴なども詳しく伝えることが大切です。原因がそれらの中にあることが多いからです。原因を理解して対策しながら鍼灸を行うと、より早く症状が改善することが多いです。
* 無理のない範囲で継続する:1回の施術で劇的に改善することもあれば、数回継続することで効果が現れることもあります。※急性症状は、1回~数回で改善することが多く、慢性症状は根気よく行うことが大事です。
🟢引用文献
鍼灸の効果に関する研究は多岐にわたりますが、一般の方にもアクセスしやすい情報源や、科学的根拠の基礎となる文献をいくつかご紹介します。
* 世界保健機関(WHO)の報告書
* 世界保健機関(WHO)は、鍼灸の有効性が認められる疾患リストを発表しています。これは、鍼灸の国際的な認知度と科学的根拠を示す重要な資料です。
* World Health Organization. Acupuncture: Review and Analysis of Reports on Controlled Clinical Trials. 2003.
* 日本語訳や概要は、日本鍼灸師会などの関連団体が公表している情報を参照すると良いでしょう。
* 厚生労働省
* 厚生労働省のウェブサイトでは、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師に関する法律や、関連する情報が掲載されています。
* 厚生労働省「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師」関連情報
* (具体的なリンクは時期によって変動する可能性がありますが、厚生労働省のサイト内で検索可能です)
* 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 統合医療情報発信サイト
* 「統合医療」に関する様々な情報を提供しており、鍼灸に関する科学的エビデンスについても解説しています。
* 統合医療情報発信サイト「鍼灸」(National Center for Global Health and Medicineが運営)
* https://www.ncgmjapan.jp/igaku-joho/category/shinkyu/
* 学術論文データベース(英語文献の例)
* より専門的な科学的根拠を探す場合は、PubMedなどの医学論文データベースで「acupuncture」「moxibustion」と検索すると、多くの臨床研究や総説(レビュー)論文が見つかります。
* 例として、疼痛管理における鍼灸の有効性に関するメタアナリシス(複数の研究結果を統合して分析する手法)などが挙げられます。
* Vickers AJ, et al. Acupuncture for Chronic Pain: Individual Patient Data Meta-analysis. Arch Intern Med. 2012;172(19):1444-1453.
* (これは一般の方には難しいかもしれませんが、科学的根拠の裏付けとなる論文の一例です。)
*ツボの効能:『針灸腧穴学』(楊甲三1989年)、『経絡ツボ検索』アプリを参照。